8カップの活用
(インタビュアー:「TEINEI」製作委員会)
橋本
テイクアウトのお弁当はお手頃価格に設定されていることが多いので、おかずの種類を増やせない場合があると思います。でも見栄えの良いお弁当にしたいという場合はカップを使うと色の工夫ができます。
鮮やかになり、おかずを増やさずともイメージ良く仕上がります。シンプルな白いパッケージには、レタスを模したバランのようなものを添えるといいかもしれません。
デザイナー
お弁当の小道具も今は色々な種類が売られていますね。
橋本
本物のレタスを入れてもシナシナになってしまいますし、合成樹脂製のものでも色どりとしては合格点だと思います。料亭のお弁当の時などに登場する黄色い小菊も、お刺身の上で目を引き、彩りが欲しい時に活躍します。
デザイナー
赤い鮪のお刺身の上によくありますね。
橋本
緑のカップは赤を鮮やかに見せるので、赤いトマトを対比色として入れると良いです。また、季節感を盛り込むこともできますね。平安時代の十二単の装束に「重ねの色目」という配色の文化があります。季節によって当時の貴族たちは色と色の組み合わせを考えて使用していました。
世界でも例をみない当時の配色見本帳のようなものが伝えられています。今回はカップを使用して「重ねの色目」の季節感を出してみたいと思います。用意していただいたものは全て市販品ですし、どなたでもチャレンジ可能です。
デザイナー
楽しみです。
橋本
では早速、春夏秋冬を再現してみましょう。まずは春の「重ねの色目」の「桃」には、淡い紅色と萌黄(もえぎ)という色名の黄緑を合わせた配色があります。こちらのカップの淡いピンクと緑を使って表現してみましょう。
デザイナー
色の違う2つのカップを、配色を考えて入れるというアイデアは素敵ですね。
橋本
このような淡い色のカップですと、2つ重ねてもお互いの色がちらっと見えて春らしさが出ますし隣に置いてみても綺麗な春の印象が演出できます。
デザイナー
とても綺麗です。カップを重ねるという発想はありませんでした。
橋本
次は夏の「葵」です。紫色の花に緑の葉なのですが、今回は緑を上にしてみましょう。
デザイナー
はい。
橋本
紫は下にします。夏らしいスッキリとした植物の印象が表現できたでしょうか。先ほどと同じように2つのカップを隣に並べて夏の爽やかな色ということで見せても、雰囲気が出ると思います。
デザイナー
試してみると面白いですね。
橋本
今度は秋の重ねです。女郎花(おみなえし)という黄色の花があります。諸説ありますが、黄色と緑の配色です。黄色を上にします。装束では表と裏という表現をします。表は黄色で裏は緑にして重ね、薄い色ですと裏の色がうっすらと透けて見える面白さもあります。
黄色は菊の色、銀杏(いちょう)の黄葉(こうよう)の色も連想させるので秋らしいイメージが表現できます。
デザイナー
綺麗ですね。ちょっとした工夫で変わりますね。
橋本
次は冬の「雪の下」です。雪の下に紅梅が隠れているという風情です。雪は白、紅梅はピンクです。白とピンクのカップを離して置いて使っても良いですね。冬の雪の中、来るべき春を待ち望む花を表現しています。
デザイナー
季節ごとにカップの色を変えれば同じようなメニューでも季節感が出せますし見た目も素敵ですね。料亭のお弁当のような高価なお弁当のようにあれこれ準備しなくても良いですし、市販品で遊び心のような気持ちでチャレンジできますね。
橋本
同化させるという意味で、緑のカップならホウレンソウのおひたし、黄色ならば卵料理でもいいですよ。または対比で紫のカップに卵を入れてもメリハリが効いて楽しい印象も作れます。
デザイナー
ハロウィンの時、クリスマスの時なども色の合わせ方を活かして楽しめますね。コストや手間を抑えて季節感を出せそうです。
橋本
料亭のお弁当は食材の内容を目で楽しむことが多いので、和食の料理人の方は、生け花などを習っていらっしゃる方も多いと聞きます。色の勉強も熱心にされていると思いますが、食器へのこだわりとはまた別に、お弁当用のカップや小物の使い方もぜひ研究されてみてもよろしいかと思います。
デザイナー
お手頃価格のお弁当ならば、カップの色の使い方にこだわりを出しても良いですね。「このお店は細かいところまで気配りをしている」と思われます。
橋本
ぜひそこはHiRASAWAさんの方からご提案してください
デザイナー
そうですね。パッケージデザインの仕事だけに留まらず、色々なご提案ができるようになればと思います。