TEINEI

TEINEI GUEST TALK Vol.3

食材関係

〜「売れる」テイクアウトを考える 〜

TEINEI GUEST PROFILE

株式会社日本教育クリエイト

橋本 実千代

MICHIYO HASHIMOTO

クリエ・スクール
チーフエデュケーター

テキスタイル卸売業(婦人服地)に11年間勤務後、
平成10年よりクリエ・スクールのチーフエデュケーターを務めながら、
大学や専門学校、自治体、企業、個人向けに色彩講座、コンサルティングを行っている。
テレビ、ラジオ、雑誌、新聞の連載等でも活躍。
日本色彩学会正会員(色彩教材研究会、パーソナルカラー研究会、環境色彩研究会所属)
跡見学園女子大学非常勤講師

クリエ・スクールHPは下記をご覧ください。 https://www.c-color.net/
【保有資格】
  • ・色彩検定協会認定色彩講師
  • ・東京商工会議所カラーコーディネーター検定認定講師
  • ・食空間コーディネーター2級
◎共著
  • 「世界のパンチカラー配色見本帳」(パイインターナショナル)
  • 「色で読み解く名画の歴史」(パイインターナショナル)
  • 「色で巡る日本と世界~くらしの色・春夏秋冬~」(青幻舎)
  • 「配色の教科書 -歴史上の学者・アーティストに学ぶ『美しい配色』のしくみ-」(パイインターナショナル)
◎監修
  • 「フランスの美しい配色」(エムディエヌコーポレーション)
  • 「世界でいちばん素敵な色の教室」(三才ブックス)
  • 「伝統的なテキスタイルの色使いから学ぶ 世界の配色見本帳」(日本文芸社)
  • 「366日 日本の美しい色」(三才ブックス)
フードグラフィック研究会
色と食材の関係
~「売れる」テイクアウトを考える~

「フードグラフィックのHiRASAWA」として日々お仕事をさせていただく中で
HiRASAWAは「おいしさの表現」に全力で取り組んでいます。
シズル感のある写真や、あつあつ・ほくほく・もっちりなどの擬音語。
それらをかけ合わせる配置や見せ方。
そして重要なことは「色をいかに効果的に使うのか」ではないでしょうか。

色彩学の講師として、橋本実千代先生に全部で3回・HiRASAWAにお越しいただき
ました。食材と色の調和や、1950年代から90年代にかけての流行色を学んだ後、
「時代背景を意識した飲食店のポスター制作」というワークショップに臨みました。
携帯電話でリサーチをすることは厳禁。用意された資料と画材道具のみで各部署混合の
6チームが店頭用のポスターをデザインして、プレゼン合戦をしました。
拍手喝采あり、笑いあり、そして何よりデザイン部以外の部署の者も含めて
HiRASAWAの社員全員が色彩学を学ぶことにより、
会社として一回りも二回りも成長しました。

TEINEI Vol.3 のテーマは ~「売れる」テイクアウトを考える~ です。
先が見えない新型コロナウイルスの猛威により厳しい状況に立たされた飲食店では、
新たな活路としてテイクアウトの販売を始めるお店が急増しています。

「おいしそう」の感覚は人それぞれ。いくら「おいしそう」を掲げても、
それが「売れる」ことには直結しません。

どのようにすれば「売れる」テイクアウト商品ができるのかという課題に対し、
色彩学を用いた見解をもとに、橋本先生と当社デザイナーが
ロジカルに紐解いていきます。

1フードグラフィック研究会について
(インタビュアー:「TEINEI」製作委員会)

橋本先生には2回にわたりHiRASAWAで色彩について教えていただきました。
プラスして特別講義も行われましたので合計3回。フーケン史上初の試みでした。
その節はありがとうございました。
橋本先生
(以下敬称略)
HiRASAWAの社員の皆様に興味を持っていただき3回の開催となりました。
色彩学は非常に身近なものですし、御社のデザインのお仕事にも直結しますからね。
デザイナー
飲食専門のデザイン会社というHiRASAWAの特色を考えていただきフーケンに臨めました。
橋本
ところで、このお仕事に就こうと決めたのはいつ頃ですか?
デザイナー
小さい頃から絵を描くことが好きで、高校では美術部に在籍していました。気が付けば自然とデザイナーの道へと進んでいました。
橋本
私も元々は描く方に興味があったのですが、紆余曲折ありまして鑑賞専門になってしまいました。普段はカラースクールや大学で講師をしたり、執筆活動などをしておりますので絵画鑑賞は仕事にも活かされています。
デザイナー
私も休日は時間を見つけて美術館巡りをしています。美術作品の中から仕事のヒントを見つけることも多いです。
橋本
さて、フーケンの1回目の時は、赤や紫や黄色などの色画用紙をお皿に見立てて食べ物の写真をその上に置き、色の調和を自分自身の目で確認しました。
デザイナー
サラダやトマトスパゲティ、カレーライス、メロンなどで試しました。食材の色と器の色のバランスを考えました。
橋本
季節感を出すにはどの組合わせが良いのか、高級店の優雅さ、中華・フレンチなど国ごとの特徴ある料理を表現するには?などのお題がありましたね。ダイエット時、食欲の秋をイメージする組合わせは?というものもありました。テーマによってお皿代わりの色画用紙を変えて、食べ物の色との視覚効果を学びました。
デザイナー
色の視覚効果はデザイナーとして過去に学校で学んではいますが、長く仕事をしていると感覚でこなしている部分もあります。改めて立ち止まって考えてみるという良い機会になりました。
橋本
対比色(色相環上で大きく離れた位置にある色)の例として、青とオレンジ色を使ったラベルの果汁飲料のお話をしました。皆さんにも色画用紙で再現してもらいましたね。売り場でも非常に目立ち、ロングセラーになった商品です。
デザイナー
商品名を聞くとまずラベルのデザインが浮かびます。
橋本
補色対比といいますが、これはゴッホを彷彿させる色の組み合わせです。対比で有名な黄色と青紫の「夜のカフェテラス」という絵は、補色の関係でお互いの色を引き立て合っています。 フーケンではオレンジの他にカレーライスの写真でも試しました。黄色または茶色のようなカレーライスには青や紺色っぽいお皿が合います。暖色系は青があると引き立ちます。

『夜のカフェテラス』(1888年)フィンセント・ファン・ゴッホ

デザイナー
から揚げの写真でも試しました。青と相性が良かったです。
橋本
そうですね、お互いを引き立て合っていましたね。印象的な色やデザインで売り出して大ヒットした商品の話をもうひとつします。男性の購買層を意識した果汁飲料の缶入りドリンクのため、 商品開発には男性が中心に集められました。結果として非常にシンプルなデザインになりました。青の背景色に、黄色のグレープフルーツの絵が大胆に大きく配置されたデザインです。対比色ですね。売り場でも非常に目立ちましたし、 大ヒットしました。職場の机の上に置いても違和感のないデザインにしたとのことでした。
デザイナー
オシャレなデザインならば男女問わず手に取って、試しに飲んでみようと思うかもしれません。
橋本
新商品を出すメーカーの方々、デザイナーさん、HiRASAWAさんも含めてですが、綿密に計算されていらっしゃるのが分かりますね。特に飲食関係のデザインは対比を意識されてデザインされる場合が多いです。
デザイナー
そうですね、そう感じます。
橋本
色は隣接する隣の色に影響を受けます。チョコレートケーキを例にしますと、チョコレートの茶色というのはオレンジを暗くした色なので、薄い水色にも合います。おいしそうに見せるためにも色の視覚効果は非常に重要です。 フーケンではHiRASAWAさんの実際の制作物である飲食店のポスターを10枚ほど使って説明をしましたが、ご自身が制作されたものもありましたか?
デザイナー
はい。私が手掛けたスイーツ店のポスターなどを選んでいただきました。
橋本
かわいらしい雰囲気でした。よく覚えています。
デザイナー
ありがとうございます。いちごなどの季節の食材を使う時や、クリスマスやお正月などの大きなイベントは、はっきりと分かりやすく表現する必要があるクライアントも多く、色使いには特に注意をしています。
橋本
カラフルだけどトーンが揃っていて良い作品ばかりでした。トーン表を見ますと、カラフルなものを作るとき、同じような色調のもので合わせると多色使いでもうまくまとまります。とてもきれいにできていると思いました。

ライトトーンのイメージ

デザイナー
ありがとうございます。「おいしそうに見せる」というデザインを追求する前に基礎としてあるものなので、その部分を社員全員と共有できたことは良かったです。
橋本
スイーツですとライトトーンが良く使われます。明るさを表す明度は、高い、低いと表現しますが、明度が高くて鮮やかではない色を使った方が甘さとか軽さとか、洋菓子の感じが出ます。フーケンでは寒暖感、軽重感、明度と彩度の関係性をプリントにして説明しましたね。
デザイナー
はい。軽い重いと感じるのは明度が影響しているという内容でした。
橋本
明るい色ほど軽く感じ、暗い色ほど重く感じます。宅配便の箱に白い色を使うようになったのも、配達する人も受け取る人も荷物を軽く感じることができるからです。 「進出」と「後退」も学びましたね。赤やオレンジ、黄色などの暖色は進出して見え、青緑や青は後退して見えるということを車の話を例にしました。赤い車と青い車では後ろの車からぶつけられやすいのはどちら? というクイズも行いましたね。赤い車は進出して見える、つまり近くに見えるので後ろの車は車間距離をとろうとします。青い車は後退して見える、つまり遠くに見えるので、後ろの車は距離を詰めようと思い、 接近しすぎてぶつけてしまう恐れがあります。紺色などの車は夜の闇にも紛れますし、注意が必要です。
デザイナー
目の錯覚のような感じですね。
橋本
こんな話もあります。人間は自分の記憶の中の色を正しいと思ってしまいます。茄子の色を例にしますと、本来の色は鈍く彩度が低いです。ですが絵本に出てくるような茄子の色をイメージしてしまうのです。 他には青空の色と肌の色が顕著です。「自分の肌の色に近い色はどれですか?」と、肌の色見本をいくつか見せながら質問すると、必ずといっていいほど自分の肌より明るい色を選びます。
デザイナー
記憶の中の肌の色なのですね。小さい頃に見た絵本の童画やクレヨンの色の影響を受けていると思います。
橋本
入学式、卒業式でお馴染みの桜の花もソメイヨシノはほとんど白に近い色なのに、桜の花といえばピンク色をイメージします。
デザイナー
そうですね。正しい、正しくないは別問題として、色の持つイメージはデザインでも大事に扱わないといけませんね。
フーケンのワークショップでは「年代」と「飲食店の業種」、それぞれ1枚ずつのくじを引き、その組合わせで制作物の内容を決めました。「1970年代」「居酒屋」など、その場でお題が作られるという仕掛けでした。 1950年代、60、70、80、90年代の流行カラーや社会情勢も考えてデザインをしてもらいました。戦争直後の貧しい時代、復興時代、バブル時代。それぞれの時代へタイムスリップをして当時のデザイン会社の社員に変身し「その時代の飲食店のポスター」をチームで協力して作り上げました。
デザイナー
スマホで調べてはいけないという厳しいルールはありましたが、、当時の流行色も直前の講義で習っていましたし、用意されていた参考書籍を読み込んで研究しました。 あとはチームワークに頼るしかないというワークショップでした。5人のチームメイトがそれぞれキャッチコピーを考えたり、プレゼンのやり方を考えたり、担当制で楽しかったです。私は絵を描く担当でした。画材もたくさん用意されていて楽しかったです。
橋本
フーケン名物と事前に聞いていましたが、その場のくじ引きで各チームの制作物の内容が決まるという斬新な方法でしたね。
デザイナー
私のチームは「50年代」「洋食屋」でした。チームの中で誰も生まれていない時代ですし、書籍で当時の資料を紐解きながらのスタートでした。まずはその時代にはどういう言葉の表現やイラストのテイストだったのかを調べました。 通常の業務ですとインターネットで調べるようなことも書籍で調べるのは新鮮でした。普段の仕事の時とは違う熱い議論も交わされました。
橋本
今はなんでもインターネット、スマホの時代ですから、それをNGにしたのは良いことですね。今まで皆さんが培ってこられた環境、学んだことが活かされたと思います。チーム全員と話し合いをすることによって役割分担もきっちりとできていました。 クライアントさんからお仕事をいただくと、基本的には営業さんとデザイナーさんが打ち合わせをされるようですが、色々な部署の社員皆さんで考えて制作されるということは、フーケンの醍醐味ですね。
デザイナー
経理部の方や生産部の方のご意見も新しい発見がありますし、貴重な機会になっています。
橋本
制作中の皆さんの様子を見て回りながら、その場で質問を受けることもありました。ウイスキーの「イ」を「ヰ」と旧字体で描いたり、キャッチコピーをその時代に合った字体で描かれているチームもあり。それぞれ工夫をされていて面白いなと思いました。
デザイナー
はい。プレゼンで他のチームの作品を見るのも楽しかったです。1980年代の居酒屋さんでは元気な頃の日本を表現していました。「朝までパーティー!」というキャッチコピーも今の時代だと色々と問題がありそうですね(笑)。
橋本
古い時代の洋菓子屋さんや洋食屋さんのチームでは、若い社員の方が意見を出し合って上手に表現をされているのが印象的でした。和食や和菓子屋さんが当たった班も、目を引き付ける工夫がなされてました。 90年代の回転寿司のキャッチコピーも凝っていましたね。「廻る廻る時代も寿司も」と。いいですね。色使いにおいても、各時代の流行色を意識されていました。
デザイナー
社内には20代から60代まで様々な年代の社員がいるので、チーム全員が楽しく取り組めました。ぜひ今後の仕事にも生かしたいです。
橋本
HiRASAWAの皆さんが今後のお仕事の中でお取引先から「〇〇のようなイメージで表現して欲しい」という依頼を受けたときには、色の特性やその時の時代背景、流行色も取り入れたご提案もできますね。 限られた時間の中でしたが、HiRASAWAの皆さんのチームワークの素晴らしさも見せていただき、全体を通じて楽しいワークショップでした。

【ワークショップの作品】