TEINEI
ユニバーサルデザイン
コーディネーター
実利用者研究機構 岡村 正昭
フードグラフィック
デザイン
株式会社 HiRASAWA 長尾 真輔
テーマ
「高齢者に向けたフードグラフィック」と
「これからのフードグラフィックに求められるもの」
TEINEI GUEST PROFILE

実利用者研究機構 CEO

岡村 正昭 様

MASAAKI OKAMURA

ユニバーサルデザイン
コーディネーター

大学卒業後、大手通信会社へ就職。
ITインフラ分野を中心にシナリオ型提案営業、代理店営業、店舗運営などを経験し、 その後、IT系ベンチャー企業にて組織運営、経営等全般に携わる。
独立後は、経営コンサルタントを行いながら国内及び海外のNPO、NGO団体に参加し、社会起業、ファンドレイジング等を学ぶ。
UDコーディネーター養成講座受講をきっかけに企業の問題解決の視点を研鑽するため、
実利用者研究機構(旧:日本ユニバーサルデザイン研究機構)に入社。
現在は、実利用者研究機構にて、企業・自治体への研修・講演、
製品開発、改善コンサルタント及び、団体運営を担当。
詳しくは下記をご覧下さい。 https://jitsuken.com
【主な担当案件 新規開発、改善、調査等】
  • 情報コミュニケーションデザイン
  • バリアフリー設備
  • 空間、建築、サイン等
  • 医療機器
  • 小型家電製品開発、改善、リニューアル等
  • 公共交通機関設備
  • 住環境設備
  • 化粧品容器、パッケージ
  • 非常時・災害時設備
  • 次世代モビリティ開発
◎その他 最近の講演活動
  • 経団連 講演
  • 山梨県庁 講演
  • 福知山市役所 講演
  • 鳥取県庁 講演
  • 国立病院機構 近畿学生フォーラム講演 
  • JR東日本 サービス品質フォーラム講演

株式會社HiRASAWA
企画デザイン部 マネージャー

長尾 真輔

SHINSUKE NAGAO

1977年生まれ。
飲食業界のグラフィックデザインを長年にわたり経験し、
大手チェーン店から小規模の個人店まで様々な業態のデザインに携わる。
メニューはもちろん、ロゴや店頭ファサードに至るまで幅広いツール作成を担当し
現在はHiRASAWA企画デザイン部のマネージャーとして活動中。
料理と同じように、素材を活かしたペーパーツールのデザインを得意とし
和食洋食など様々な業態に合ったメニューの企画や提案を行う。
趣味はモータースポーツ観戦、靴磨き。
はじめに/フードグラフィック研究会

UD(ユニバーサルデザイン)という言葉が身近になり、今では小学校の教科書などでも取り扱われるようになりました。
生活雑貨や文房具などにもUDとして商品化されたものも増えてきています。
街へ一歩出れば数十年前と比べて公共機関も使いやすく進化していることに気が付きます。

UDのポイントとしては3つの項目が挙げられます。

1、より多くの人々にとって使いやすくする設計
2、構造を含めた、広い意味でのデザイン
3、特定の人だけを対象とはしない (障がい者専用ではない)
(宮入賢一郎・実利用者研究機構 著「トコトンやさしいユニバーサルデザインの本」より抜粋)

フードグラフィック研究会は3時間という短い時間の中でしたが、社員たちからは随所で質問が飛び交い、後半ではグループワークの時間も設けられ、 講義が始まる前は「バリアフリー」と「ユニバーサルデザイン」を混同していた者もいましたが、終了後にはしっかりと違いを理解し、 それぞれのセクションでどのようにUDの考え方を業務に活かせるかを考える機会となりました。

当日は時間の都合もあり、HiRASAWAのフードグラフィックという仕事内容に沿った意味でのUDの考え方までは詳しくお話を伺う時間が取れませんでした。
改めてこの「TEINEI」の場で弊社企画デザイン部の長尾と対談形式で岡村先生とお話をさせていただきました。

4デザインの価値を考える

岡村正昭先生
(以下敬称略)
不二家の「ルックチョコレート」やクラッカーの「リッツ」などのパッケージデザインを手がけたレイモンド・ローウィさんというデザイナーは、10人が10人見ても「嫌いじゃない」というデザインを作ることに尽力しました。
その結果、デザインに価値を生み出すことに成功しました。
長尾
「嫌いじゃないデザイン」ですか。
岡村
デザインの価値というのは何なのか。例えば、売れることやクレームが減ることが目的だとします。
目的を達成するために若者にウケるデザインをつくる。
しかし、購買層をしっかり分析したら、実は購入層の半数以上が高齢者だったなんてことはよくある話です。
長尾
先ほどのお話にも出ましたが、高齢者向けのデザインとなると
「お年寄りでも分かりやすく文字を大きく」というのがデザインの基礎のように一般的には考えられています。
岡村
そうですね。それは仕方のないことです。
でも実はそれだけではないことにHiRASAWAさんが気づかせてあげるような提案をしていけばいいわけです。
先ほどの白内障体験ゴーグルでも検証しましたね。
文字の大きさについては、読みたいと思うモチベーションがあれば、多少の読みづらさを超えて、読んでいます。
新聞や文庫本の活字の大きさは劇的に変化していませんよね。
長尾
虫眼鏡を使ってでも新聞を読みたければ読みますよね。
岡村
そうです。飲食店でも、読みたいと思うメニューは、読みづらさがあっても必死で読みます。
長尾
必死で読むメニューというものがあって良いのでしょうか?
岡村
良い場合もあると思います。
例えば、ハンバーグ専門店と大きく掲げているお店で、その種類が100種類くらいあった時はどうでしょうか。
わざわざ専門店に入ったわけですから、家では味わえないような、いつもと違うハンバーグが食べたいと思う人もいるでしょう。
メニューを必死で読み込もうとしますよね。このようなお店の場合には、デザインを損なうほどの大きなメニュー名よりも、種類の違いや特徴がわかることの方が重要かもしれないので、そういう提案もありだと思います。
長尾
お店それぞれの提案は大事ですね。文字は小さいより大きい方が良いかもしれないですがデザインのことを考えると弊害も同時に生まれこともあります。
岡村
文字を大きくしたことで逆にクレームが出てしまった事例もあります。
長尾
文字が大きくてクレームですか。なんとなく想像がつきます(笑)。
岡村
デザイナーなら分かりますね。
フォントが大きくなれば伝えたい情報量を削っていかなくてはいけません。
「水を入れてください」と9文字入る限られたスペースが字を大きくしたことにより、例えば「水を」の2文字しか入らなくなると、行間を読みとってください、みたいな話になる。
それが、分かりにくさの原因につながっていくこともあります。
長尾
似たような話ですが、制作依頼で「全部のメニューを目立たせたい」というものが稀にあります。
デザイナーとしては順番をある程度決めて折り合いをつけたいところなのですが「全部目立たせてほしい」となると収拾がつきません。
岡村
そういった時の対応はどうしていますか?
長尾
基本的にはクライアントの意向に沿ったものを作らなければいけないのですが、デザインで何を伝えるのかというのは大事なところであり理解していただきたいポイントでもあります。
メニューの読みやすさなのか、商品の説明なのか。
とにかく安さを打ち出したいのか。ヒアリングを重ねることを大事にしています。
岡村
「クライアントの要望を全部デザインに落とし込む」ことは難しいですね。
依頼通りに制作したのに、それによって弊害が生まれることもある。
例えば、20代前半のオシャレな女性や若いカップルがデートに使いたくなる店というコンセプトと高齢者の憩いの場になる店というコンセプトを両立させることは難しいですよね。
そもそものクライアントのコンセプトが何なのか?
相談に乗りつつ、ブレがでないように修正していくことも制作会社の役割だと思います。
長尾
そこはデザイナーにしっかり相談していただきたいですね。
どのように考えていらっしゃるのか。
岡村
例えば、コロナ以前は、日本の観光業は海外からの観光客のおかげでかなり賑わっていました。
ホテルによっては、外国語対応のために外国人の従業員を雇ったり、  「日本らしさ」を演出する内装に変えたり、海外からの観光客をターゲットにした 取り組みを行って成果を出しているところもありました。
しかし結果、日本人の客離れを起こしてしまうこともありました。そうなると何かのきっかけで海外からの観光客が来なくなったら一大事になります。
どんなお客さまに、どのように楽しんでもらうのか?
その場しのぎで対応してしまうとコンセプトが崩壊してしまうこともあるので、長期的にサービスを設計していくことが重要だと思います。
長尾
ニュースでも度々放送されていました。
特にウィルス問題の時の訪日客の大幅減少は観光地に大打撃という。
岡村
想定外は大打撃になりますよね。
長尾
HiRASAWAの仕事でこんなことがありました。 少し内容を変えてお話しますが、海外の人気観光地のホテルにあるスイーツの店を日本のホテル内にも作ることになりました。
せっかく日本に作るので、日本人ウケするように作るのかなと考えていたのですが、そのままの姿で表現して良いと言われました。そこまでは理解しましたが、 現地の言語のままでも良いと言われました。日本語ですらないメニューということに驚きました。
ですがそこはコンセプトのお話ですので。
岡村
海外のホテルはブランディングに力を入れている企業が多い気がします。
ブランディングの基となるコンセプトがブレない。
しかし、コンセプトではなく、やり方も海外と全く同じにして、日本で展開すると、 想定していた結果がでないこともあります。
長尾
何が誰に対してどうするのかという設計です。
食べ物ですと、HiRASAWAのフードグラフィック研究会の中で教えていただいたメニューの話を思い出します。
メニューは誰のために作るのか。印象的でした。
岡村
おばあちゃんの原宿ともいわれ、高齢者に人気の巣鴨の話ですね。
ファストフードのポテト、ナゲット、シェイクなどは、高齢者にとってあまり馴染み深いものではありません。
しかし、メニュー表には、商品名と写真が載っているだけです。
長尾
大きなチェーン店なので、ほぼどの店も同じようなメニュー表ですよね。
岡村
数年前に巣鴨店に行った時は、ナゲットの横に「鶏肉の唐揚げ」と書いてあったり、 ポテトの横に「おいも」と補足情報が書いてありました。
L・M・Sという表示も「大・中・小」です。
長尾
高齢者のためだけと思われがちですが、そうではないと教えていただきました。
岡村
高齢者はナゲットが何か分からないから店員さんに聞く。店員さんが答える。
累計するとその説明は何百回かも。どんな食べ物か分からないから注文しない場合もありますよね。
長尾
分からないけど勇気を出して注文したとしても想像と違う商品が出されたかもしれません。 それならば書いた方がいいですね。お互いのために。
岡村
合理的なものも含めてどこに照準を合わしていくかです。
実利用者に合わせる。それが「問題解決型のUD」です。
長尾
大きい飲食チェーン店ですとエリアごとにメニューの価格や内容が違う場合が非常に多いです。
海外の人が多い地域では英語のメニューを追加で作ったりデザインを何パターンか変えて作ることも。
クライアントはしっかりと調査をされているのだなといつも思っています。